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井関さおり |
『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(著者:米原万里 / 出版社:角川書店)
最近読んだ中で面白かったのはこの本、2006年に残念ながら亡くなられましたが、ロシア語同時通訳・作家として活躍した米原万里の、ソビエト学校時代の級友たちをめぐるノンフィクションです。
9歳から14歳までをチェコのソビエト学校で過ごした作者は、同じく共産主義で政治的影響力のある親を持つ、様々な国出身の生徒たちと出会います。
私は社会主義思想だとか、冷戦構造の崩壊であるとか、そういうことをあまり知らず社会人になり、リアリティも感じないままでした。しかしこの本にはそういう諸々のど真ん中で10代を過ごした人々が生き生きと描き出されていて、記録や評論では分からない時代のダイナミックさが伝わってきます。なにより、出てくる人々がみんな、私たちにも普通に覚えのある、見栄とか欲とか友情とか、理屈で収まりきらないエネルギーに満ちていて、愚かに見える面すらも友人や自分自身を見るように目が離せない気持ちになってきます。
米原万里はエッセイなど他の著書も大変面白い作家ですが、この本は、あけすけで大いに笑える日常会話から、社会情勢に翻弄される不安の中でもたくましく生きる姿まで、スピーディーかつ濃厚に楽しめます。
ちなみに、もう少し軽く読書を楽しみたい方には、講演録集『米原万里の「愛の法則」』もおすすめです。オビのアオリが“女が本流、男はサンプル!?なぜ「この人」でなくてはダメなのか?”。男女論も、翻訳業や国際化への諸々のお話も、可笑しくかつ頷いてしまう内容満載です。 |