トリノの聖骸布
イエス・キリストの遺体を包んだというふしぎな亜麻布です。幅1m長さ4m強の長方形で、男性の体の正面と背面が魚拓のように写っています。ムチ打ち刑や十字架刑などイエスと同じ傷が全身に見られ、AB型の血痕まであります。信者の一部ではイエスの実在と奇蹟の証拠です。6世紀、すでにトルコのエデッサに人の手によらないというキリストの顔が写った布がありました。これが後世に描かれたキリストの顔の原型とされ、それらは聖骸布の男性と似ています。イギリスの研究者イアン・ウィルソンはこの布が畳まれた聖骸布と考えました。布がコンスタンティノープルに移った944年、助祭長は布が顔だけでなく全身で、血痕もあることを語っています。1204年、コンスタンティノープルはフランスを中心とする第4回十字軍に略奪されました。それ以来行方不明です。そして1353年、フランスの町で由来不明のまま聖骸布が公開されました。その後紆余曲折を経て、1578年から現在までイタリアのトリノで保管。1898年に写真が撮られると、白黒が反転した状態ではより鮮明で立体的に見えました。20世紀後半は様々な科学調査が行われ、謎は深まりました。色を塗ったり筆を使った跡がなく、どうやって人の形が転写されたのか分からないのです。1988年、3つの研究所で行われた放射性炭素による測定では1260〜1390年という結果でした。しかし、布には1532年の火事による焦げ跡や継ぎ当てが残るなど、各年代の物質が混入しています。最近のBBCの番組でもこの測定に疑問を投げました。中世の偽造など様々な仮説はあるものの、それで同じ物を製作できた人はいません。2000年の一般公開には300万人以上も集まりました。これからも科学の挑戦と人々の信仰を受け続けることでしょう。