臓器と記憶の移植
科学的には認められてはいませんが、臓器を移植された患者の一部にはその臓器の持ち主だった人の記憶や性格が乗り移るような現象が報告されています。有名なのは、事故で死亡した少年から心臓と肺臓を移植されたクレア・シルヴィアという女性です。彼女は急に嫌いだった食べ物が好きになり、活発で男性的な性格に変わりました。さらに夢の中にその少年と思われる人が現れました。後に少年の家族と会って聞いたところ、その少年の好みや性格と、夢で知った名前まで同じでした。彼女の体験は『記憶する心臓』という本になっています。アメリカのある心理学者の研究では、移植の後に1割の人が性格や記憶を受け継ぐそうです。食事や音楽や読書の趣味が全く変わったなどの様々な例があります。高い所が恐かった女性が登山家になったり、チョコレート嫌いだった弁護士がチョコスナックを食べ出したり、殺された少年の心臓を移植された少女がその夢を見るようになり犯人が逮捕……。これらの仮説として、臓器の神経部分あるいは細胞そのものに情報が記憶されているという説がありますが、それならもっと報告されそうな気がします。一般的には、命がけの移植手術をきっかけにして患者の心身に変化が起きたと考えられ、これに偶然や錯覚が重なった結果ともされます。それでもあまりに特徴的な一致があるのはやはり不思議です。もし死後も人の霊魂が残るとすれば、その霊魂にとって最も愛着があるのは自分の身体であり、その一部を移植された人との結びつきが強まるのは当然かもしれません。その場合は、臓器等による物質的な情報伝達よりもむしろ、お互いの魂の間で何らかの情報共有が行われているのではないでしょうか。