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ラーラ |
ルポ『精神病院をぶっこわした国イタリア』という記事が、週刊金曜日9月21日号に掲載されています。今年、有名なサンレモ音楽祭で優勝したのは、アフロヘアのシモーネ・クリスティッキ。狂人を10年も見続けてきたクリスティッキは、狂人の視点から、短い詩に強いメッセージをこめ、軽く表現しました。説教でも議論でもなく、軽く。これが彼の才能です。
精神保健大改革がイタリアで始まって30余年。いま、精神病院だった建物は廃墟となっていたり、精神病の人々の居住施設になっているそうです。町の広場では「狂人たちと夕食する会」が月に1回、無料で開催されるとか。
今から30余年前、東京の大きな精神病院で看護学生として実習したとき私は、担当した患者さんに必要なのは看護者との関わりではなく、家族に受け入れられ実社会の中に解放されることだと、強く思いました。人間はつまずいたとき、親しい人々との交流のなかで力をよみがえらせることができます。でも、今だに日本では、精神障害のレッテルを貼り、隔離して差別する傾向があります。クリスティッキの凱旋コンサートは、4日前に440席を完売。会場に集ったのは、年齢もさまざまな普通の市民たち、市長、文化担当助役、クリスティッキがボランティアで出入りした精神科拠点の精神科医、患者だった市民たちでした。
「彼らに一番必要なのは、外界とのコンタクト」「精神病の人々と社会を隔てている塀を壊す作業は、社会全体が関与すべき問題です」という市民の声。クリスティッキは謙虚にシンプルに「違うことこそ、社会の豊かさ、そのものなのだ」と歌います。
狂人に市民権をもたらした改革に拍手できる、そんな知識と情緒がいつしか国民に根づいた、だからこそサンレモの優勝なのでしょう。 |