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井関さおり |
今年も夏休み教室にたくさんの子ども達が通ってくれました。
学校からの宿題本「夏の子ども」がなくなってから、図画工作の宿題はほとんどが「自由なテーマ」でということになってきました。各種動物・恐竜・乗り物・動くもの・お店やお家・実用性のあるもの等々、希望を聞き出しながら工作をするのは子ども達それぞれの個性を見せてもらうことにもなるので、興味深く楽しんでいます。
工作は実体を扱う作業で、3次元だからこその制約があります。「その格好じゃ2本足では立たないよ!」「ビー玉は上に向かってのぼらないってば!」と夢の膨らんだ子達に指摘することは数限りなくありました。しかし、それをクリアしてきちんとバランスが取れて完成された姿、というのは非常に満足感を覚えるものです。
また工作は、「つもり」を形にする為に色々な工夫が必要です。イメージする色に絵具そのままの色では対応できないので混ぜる、きれいな仕上がりのために少しのはみ出しを削る、危なくないようにカドを処理する。当たり前でしかし手間のかかることですが、その手間の違いが完成度の違いに繋がってきますので、がんばった分だけ満足度も上がります。
夏休みにはたくさん遊んだ思い出も残ります。それを絵に描くことは、答えのあることではなく、自分の中にある実際体感した感覚や気持ちが素直に出せればいちばんです。工作よりイメージの幅が広く、学年が上がるにつれ苦手意識の出てくる絵の課題ですが、作業の大変さも含めて、工作同様「つもり」を形にする手間ひまと面白さを感じてもらえたらと思っています。
現代の日本の生活で、私たちは「出来上がったもの」へ辿り着くことがとても簡単になっています。服は安くて品質の良いものが増え、日用品に困ることもなく、調理しなくても食べられるものが売られ、「表現」の世界も印刷・ネット・電波等から容易く受け取ることができます。それは便利さでもあり私も享受する豊かさなのですが、「ボタン一つでOK!」な代物が増え、その価値観に溺れてしまうと、世界に手ごたえをなくしてしまう危うさがあります。
工作や絵を通じて、一つのものを「出来上がらせる」面白さ、大変さを、子ども達が自分自身の感覚を充分に使って、他の誰のでもない自分の「つもり」を掘り下げることを少しでも楽しんでもらえていたら嬉しいです。
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