井関さおり

『いわいさんちへようこそ!』(著者:岩井俊雄 / 出版社:紀伊國屋書店)

いわいさんち」とは、メディアアーティストとして活躍する著者、岩井俊雄さんのお家です。いわいさんちにはロカちゃんという小さい娘さんがいて、いわいパパが彼女と作ったたくさんのものをこの本で紹介しています。
いわいパパはものをつくる人なので、絵を描いたり何か作ったりして、ロカちゃんを楽しませます。複雑な構造のものはなく、どれもしくみがシンプルなうえ、工作として「なるほど!」と思わせる工夫があって、すぐにまねしてみたくなるようなものばかりです。また、子どもの暮らしにも楽しく生かされていて、例えば、お風呂場の壁にひっつけて遊ぶシールは、遊びながらお風呂にゆっくりつからせることができます。
絵日記にも工夫があります。親子で書いているのですが、そこにはうそを書いてもよいことになっていて、いわいさん親子がペンギンさん親子になって描かれていたり、不思議な乗り物に乗っていたり、もとの出来事を写すだけでない楽しさがつまっています。
いわいパパは、ロカちゃんと一緒に絵や物作りをしながら、子どもならではの発想や感覚をとても楽しそうに共有しています。私も仕事をしながらいつも、子どもの発想って面白いわ〜と思ってきました。
親から子へ、何か完成されたものを与えるのでなく、共に作って感覚を共有して、更に新しい発想に向かう、ということは、親にとって子どもの感覚を再発見することでもあり、非常に創造的で楽しいことなのではないかなと思います。
とても読みやすく、子どもとの遊びのヒントになる写真がたくさん載っている本です。いわいさんちそのものも魅力的で、読んで気持ちの良い一冊です。

さむい日のおつかい 都築房子

さむがりのふうちゃんは、冬がにが手です。
とってもさむいある日のことです。ふうちゃんは背中を丸めて、ピューピューとふく北風の中をおばあさんのお家までおつかいに行きました。ふうちゃんはさむいので手袋をして、マフラーをして、毛皮のぼうしもかぶっていましたが、それでもさむくて、トボトボと歩いていました。お母さんから、お家にたくさん届いたリンゴをおばあさんのところへおすそ分けに持っていくように言われたのでした。
さむくていやだなあと思いながら、リンゴの入った袋を持った手をポケットに入れようとしたとたん、あっという間に3つのリンゴは転がって、道のそばの小川の中にポチャンと飛びこんで、プカプカと流れ出してしまいました。
さあ大変です。ふうちゃんはさむさも忘れて必死でリンゴを追いかけました。川の中のリンゴを見失わないようにしながら、どんどん走っていきました。もう、ふうちゃんの頭の中にはリンゴのことしかありませんでした。夢中で走っているうちに、リンゴに追いつくことができました。川の中に手をのばして、次々とつかまえました。けれども、手も服もびしょびしょにぬれてしまいました。
おばあさんのお家についたふうちゃんは、このことを一生懸命お話しました。すると、おばあさんは本当にびっくりして、ふうちゃんの服を着がえさせ、暖かいタオルでふいてくれました。そして、ふうちゃんの大好きなココアを入れてくれました。もう、ふうちゃんはちっともさむくありません。リンゴを追って走ったうえにココアを飲んでポッカポッカです。
帰りには、おばあちゃんから干しいもをいっぱいもらいました。ふうちゃんは干しいもが大好きなので、うれしくて、はやくお家に帰ってお母さんに見せたいと思いました。今日のおつかいはちょっと失敗もあったけど、リンゴが流れていってしまわなくて、本当によかったなあと思いました。
ラーラ

 中国大陸で生まれ、6歳まで北京で育った指揮者の小沢征爾さんが、中国の若者たちと音楽をとおして交流するようすをテレビで見ました。オーディションで選んだ中国の若者たちと日本の学生でオーケストラを編成し、北京と上海で1回ずつ演奏会とオペラを上演したのです。
 オーディションのときは、ひとりひとりの素晴らしい演奏に「こりゃあ、素晴らしいオケになる!」と感じた小澤さんでしたが、とんでもない誤算でした。中国では人口を増やさないための「ひとりっこ政策」が進んでおり、ソリストになる英才教育はできていても、まわりの演奏者の演奏をよく聴き、合わせていくオーケストラの語法はまったく身についていなかったのですから・・・
 音が合っていなくても平気で演奏を続けたり、譜面どおり技術的には間違っていなくても作曲者のメッセージを理解しないで演奏する彼らに、小澤さんは大声をあげて注意をうながすのですが理解してもらえず、取材に「地獄を味わっている」ともらします。けれど翌日、「西洋の音楽は、東洋人である中国人や日本人も立派にできる」ことを楽しんでいこうと方針を変えた小澤さん、彼の解釈を表現しながら指導していきました。おおいに喋り、おおいにほめたら、少しずついい変化が現れました。
 北京でのオペラは大成功!
 上海では本番前日にダウンした小澤さんですが、日本から同行した斉藤記念オケの仲間たちが丁寧なリハーサル。チェリストの指導者は「演奏者はみな違う解釈をしているのだから、オケの最初のリハーサルは合わなくてあたりまえ。日本みたいに最初からピッタリ合うのは、ほんとはおかしい。自分を殺してまわりに合わせるのが日本社会・・・」と感想を述べていました。こうした小澤さんの仲間たちのパート別指導が功を奏し、上海でのベートーベンも大喝采!
 演奏のあと、中国の若者のひとりは「これまで自信があったけれど、音楽をするにはまず謙虚さがなくてはいけないとわかった」と言っていました。
 小澤さんは指導中「忘れるな、忘れるな!」と何度もくりかえしましたが、それは「一緒にやってきた気持ちを、忘れずにからだに沁みこませておいたら、また音楽に生かされるから」だと話していました。 (中国と結ぶ「終生の絆」NHKより)