−私たちのなかの子どもへ− (29) |
久保慧栞 |
「フック」(著者:テリー・ブルックス / 翻訳:二宮 磬 / 出版社:CBS・ソニー出版)
このお話は、もともと映画が先。S・スピルバーグ監督による『フック』のオフィシャル・ノベライゼーションです。フックといえば、ピーター・パンの敵、フック船長。そう、これはフック船長と、大人になったピーター・パンがネバーランドで出会うことから巻き起こる、冒険と内省と愛の物語なのです。
大人にならない永遠の少年のはずだったピーター・パンが、今や家庭を持って仕事の虫になっているという設定も面白いのですが、主役以上に異彩を放つのが、フック船長(タイトルからして)。
礼儀(グッド・フォーム)の港に停泊するブリガンティン型帆船、ジョリー・ロジャー号の船長室に君臨する、孤独な海賊王フック。何が彼をしてピーターの宿敵たらしめたのかも、少しずつ明るみに出てきます。
誰をも信じないフックの予期せぬ事態は、唯一信じて待っていたピーター・パンの、あまりな変容ぶりに最悪の裏切られ方をしてしまったこと。自分がピーター・パンだったことはもちろん、フックのことさえもすっかり「なかったこと」にして忘れ去り、大人になったピーター。それに対して、ある意味なんの進歩も後退もないフック船長。むしろ彼こそが、永遠の少年だったのかもしれません。
フックのそばにも、原作『ピーター・パン』のエッセンスである「お母さん」という芯の糸が、しっかりと編み込まれています。フックがピーターの息子ジャックをそそのかした言葉に、本質をついたピーター論を見せられる思いです。
フック:「なぜ親はわが子を嫌うのか」 |