−私たちのなかの子どもへ− (24) |
久保慧栞 |
『種をまく人』(著者:ポール・フライシュマン / 訳:片岡しのぶ / 出版社:あすなろ書房)
エリー湖の向こうのカナダは、こちらからは見えません。でも、「ある」ということはみんな知っています。春も、そのようなものかもしれないわ。きっと来る、と信じて待っているしかないのね。とりわけクリーヴランドの春は、そんなふうです。(本文より引用)
薄くて小さい一冊の本のなかに、希望の種はたくさん詰まっています。アメリカ北部の小さな移民の町を舞台に、貧しくてお互い交流もなかった住民たちの声が、淡々とつづられ、心を温めます。これが本当のできごとではないとわかっていても、どこの町でも起こりうる変化への種が、読むにつれて芽を出し、育ってゆく、そんな本です。
ヴェトナム人の少女が空き地に蒔いた豆つぶから、やがて市民のよりどころとなる菜園が生まれ、町そのものが豊かに育ちはじめるなんて、聞いただけでは不思議に思えるけれど。誰かが最初の行動を起こして何かをはじめたとき、それがどんなに突拍子のないことでも、あるいはささやかすぎてそれ自体は消えてしまうようなことでも、誰かが知ってくれたことが大切なのだろうと思います。たとえ一人だけでも、それを見つけた誰かは、心を動かされてしまう。そしてまた、誰かが動くきっかけになるはず。
心を動かされてしまうという人間の本質に、希望の芽は根を張ることができるのでしょう。たとえはじまりが冬のさなかであっても。 |