−私たちのなかの子どもへ− (21) 久保慧栞

『屋根裏部屋のエンジェルさん』
(著者:ダイアナ・ヘンドリー / 絵:杉田比呂美 / 訳:こだまともこ / 出版社:徳間書店)

 両親を亡くしたヘンリー少年は、下宿屋のアガサおばさんと暮らしています。でもおばさんとは身内らしい関係ではなく、地下室に置いてもらっている居候のような関係です。そして誰も、おばさんが笑っているのを見たことがありません。
 そんな二人のもとへ、不思議な下宿人が現れます。屋根裏に住むことになったハービー・エンジェルさん。金髪で、抜群の笑顔の若い男性。朝食を食べないので、ケチケチのアガサおばさんお気に入りの存在となります。
 エンジェルさんの正体を探ろうとするヘンリー少年は、皆が電気屋さんだと思っていたエンジェルさんが、どうやら「エネルギー畑」や「人と人のつながり」の研究をしているらしいと知ります。下宿人をはじめ、おばさんまでが彼の影響を受けて、少しずつあたたかな感じを取り戻してゆくなかで、ヘンリーはエンジェルさんと同志めいた関係になってゆきました。
 この物語には忘れられないお店が登場します。その名も、「家なき子と家なきおとなの店」というレストラン。エンジェルさんの後をつけて入って行った店は、本当の意味で家と呼べる場所のない子、つまりヘンリーにとって開かれたお店でもありました。私たちが、ひとりで生きられないとわかっていてもついつい外界とのドアを閉ざしてしまうように、この店のドアも選ばれた孤独な人にしか見えません。
 エンジェルさんは、人と人のつながりを回復させるのが仕事でした。おそらくは、子どものころのエンジェルさんも、家なき子だったのではないでしょうか。家なき子だったからこそ、本当の家をつくる仕事をしているのかもしれません。

ラーラ

 いまも続く戦火の中で、イラクの人々はどう生きているのか。
 ドキュメンタリー映画『Little Birdsーイラク戦火の家族たちー』の取材は2003年3月に始まりました。空爆前の豊かなバクダッドの日常、こどもたちは朗らかな笑顔をたたえていました。
 激しい空爆が始まり、惨禍が人々を襲います。老人や女性、そしてこどもたち・・・つぎつぎと弱いものが犠牲となってきました。バグダッドへの米軍入場の瞬間をとらえた綿井健陽は、米軍の戦車の前に立ちはだかるひとりの女性の叫びにカメラを向けました。「How many children have you killed? Go to the hospital and see the people dying!」(おまえたち何人のこどもを殺したんだ? 病院に行って、死んでいく人たちを見てこい)その言葉に突き動かされた綿井は、翌日バグダッド市内のサウラ病院で凄惨な状況を目撃します。・・・
 瀕死の娘をかかえたアリ・サクバン(当時31歳)は、イラン・イラク戦争で二人の兄を失い、自らはイラク軍兵士としてクェート侵攻に参加し、そして今回のイラク空爆で3人のこどもを失ったのです。「人間は、戦争で人を殺すために生まれてきたわけではない」と彼は語ります。
 米軍の非人道兵器クラスター爆弾で右目を負傷した12歳の少女ハディール、右手を失った15歳の少年アフマド。戦火に傷ついた様々な家族を描きながら、戦争の意味を日本と世界に問いかけます。 この映画は、11月17日(木)午後、高知県立美術館ホールで、3回上映されます。このほか、11月10日(木)夜、高知県民文化ホールで、イラクのストリートチルドレンの保護をしていて人質になった高遠菜穂子さんの講演+アルファを大学生たちが計画中です。また、11月26日(土)午後、高新ホールで、昨年大盛況をうけ安田純平さんが再びイラクに焦点化した講演をします。
 戦火が続いていることに目をそむけず、私たちにできることをごいっしょに探ってみましょう!