−私たちのなかの子どもへ− (21) |
久保慧栞 |
『屋根裏部屋のエンジェルさん』
(著者:ダイアナ・ヘンドリー / 絵:杉田比呂美 / 訳:こだまともこ / 出版社:徳間書店)
両親を亡くしたヘンリー少年は、下宿屋のアガサおばさんと暮らしています。でもおばさんとは身内らしい関係ではなく、地下室に置いてもらっている居候のような関係です。そして誰も、おばさんが笑っているのを見たことがありません。
そんな二人のもとへ、不思議な下宿人が現れます。屋根裏に住むことになったハービー・エンジェルさん。金髪で、抜群の笑顔の若い男性。朝食を食べないので、ケチケチのアガサおばさんお気に入りの存在となります。
エンジェルさんの正体を探ろうとするヘンリー少年は、皆が電気屋さんだと思っていたエンジェルさんが、どうやら「エネルギー畑」や「人と人のつながり」の研究をしているらしいと知ります。下宿人をはじめ、おばさんまでが彼の影響を受けて、少しずつあたたかな感じを取り戻してゆくなかで、ヘンリーはエンジェルさんと同志めいた関係になってゆきました。
この物語には忘れられないお店が登場します。その名も、「家なき子と家なきおとなの店」というレストラン。エンジェルさんの後をつけて入って行った店は、本当の意味で家と呼べる場所のない子、つまりヘンリーにとって開かれたお店でもありました。私たちが、ひとりで生きられないとわかっていてもついつい外界とのドアを閉ざしてしまうように、この店のドアも選ばれた孤独な人にしか見えません。
エンジェルさんは、人と人のつながりを回復させるのが仕事でした。おそらくは、子どものころのエンジェルさんも、家なき子だったのではないでしょうか。家なき子だったからこそ、本当の家をつくる仕事をしているのかもしれません。
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