高知市の北を流れる久万川の中に小さな島がありました。それは、上流から流れてきた土砂が少しずつ長い間にたまってできた中州でした。島にはいろいろな植物がしげり、新緑のみどり、ジャングルのような夏、秋のもみじ、冬枯れの風情と四季おりおりの美しい変化をみせて、いつもそばの土手道を車で走る私たちを楽しませてくれました。ところが、2003年の夏、その島は突然姿を消してしまったのです。これからはじまるお話は、消えてしまったこの島のことを忘れないために作られました。
『親指こぞうニルス・カールソン』(著者:アストリッド・リンドグレーン / 絵:イロン・ヴィークランド / 訳:大塚勇三 / 出版社:岩波書店) さびしい思いをしている男の子に、空想の友人ができる――そんなお話はたくさんあるけれど、ファンタジーのなかでは、本当に不思議な世界の友人ができてしまいます。 そのリアルさは、読んでいる子どもたちにとっても冒険ですが、かつて子どもだった人にとっても、言いしれないなつかしさとともに、それと同じくらいの、かつて経験した「さびしさ」を呼び起こすのではないでしょうか。この本を読むのが初めてであったとしても。 スウェーデンのストックホルムに住んでいるベルティルの一家は、両親が仕事でいそがしく、まだ6才で学校に行ってないベルティルは、毎日ひとりで時間をつぶしています。ある日、ベッドの下から親指くらいの小さい男の子があらわれて、彼の部屋に案内されます。大きな人間の子どもがその部屋に入るには、壁から出ているクギにさわって、「キレベッピン」ととなえれば良いのです。 小さな男の子、ニルス・カールソンはすっかりベルティルの友人になり、ベルティルは上の部屋からこまごましたものを運び、ニルスの部屋を住みやすくととのえます。両親にはもちろん内緒です。子どもは直感的にそういう関係を秘密にしますが、これもまた、私たちにとってなつかしい記憶です。秘密に満ちた幼い生活が、いっとき、目の前に帰って来るかのように。