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「ピーター・パン」
(著者:J・M・バリ/絵: F・D・ベッドフォード/訳:厨川圭子/出版社:岩波少年文庫)
永遠の少年、ピーター・パン。ディズニーのアニメーションによって世界中に愛されるヒーローとなりましたが、原作は『もの寂しさ』と呼んでもよいような感情にいろどられています。ロンドンに住むダーリング一家の子どもたち、ウェンディー、ジョン、マイケルの3人が、ピーター・パンに連れられて夢の島『ネバーランド』へ飛んでゆき、海賊と戦う冒険物語にもかかわらず。
作中で著者バリが、「私はお母さんが一番好き」と言っているように、ウェンディーたちのお母さんは、影にいながら、もっともスポットを当てられている人物ともいえるでしょう。彼女はロマンティックな心を持っていますが、子どものころ知っていたピーターを忘れてしまっています。けれど、ウェンディーは、ピーターが、家族の誰ももらえない『お母さんの口の右すみのキス』に似ていることに気づいていました。
さて、子どもたちがおとぎの島へ飛んでゆく前、お母さんのしていた仕事は、『眠っているあいだに子どもたちの心の整理をする』ことと、『夜の明りをつけておく』ことでした。そして、いなくなってからは、『いつ帰ってもよいように、窓を開けておく』ことになりました。もし、もしも、ピーターのお母さんがそんなことをしてくれていたら、私たちは、ピーターに会うことも、フック船長との戦いに加わることもなかったでしょう。
久保理子
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