Ken
ラーラ
あんまり言葉に出した事はなかった。 退屈『たいくつ』 お客さんが沢山いても、いなくても、タイクツには変わりない。 右のスロープから子供が走りながらおりてきて、目の前を通りすぎる時私は、『こんにちは!走っちゃだめだよ。』と、ソフトな笑顔で声をかける。左の自動ドアから入ってきた老夫妻に『トイレはどこか?』と訪ねられ、お決まりのコースで道案内をする。 目の前には「ヒメイカリソウ」とゆう実物の10倍にもなる植物の模型がある。タイトルは【花の結婚】といって、その模型をくるりと歩けば、花粉をミツバチ(マルハナバチ)が運び受粉が成立する。花びらは地面におちて、雌しべはみごもりやがて種を落とす。まだ続きがある。種のまわりには、「エライオソーム」という甘いアリの好物がついている為アリが地面の下に種を運んでくれるという。なんてすばらしい自然界のしくみ。もちろんマルハナバチもアリも10倍の大きさで、すべてが【おばけ○○】といった感じである。その模型に近づくと、いつもの女性の声で説明が流れる。私がまだ開園前にアクアリウムに水をたしたり、お腹をすかせて待っている熱帯魚にエサをあげたり、顕微鏡の材料を中庭でさがして備えている間、それに反応して【花の結婚】は何度も流れる。時折、カギを開けて館内に入ると、誰もいないはずのまだ暗い遠くの方で「マルハナバチは・・・・」と、もう誰かに説明している声が聞こえる。誰に? ここは山の上、竹林寺がとなりにあり、もちろん墓もたくさんある・・・・・・あまり深く考えない。その説明は、私が交代してあげたいくらいにセリフを覚えてしまった。 中庭は朝から曇っていた空から雨がザーッと降っていて、秋に一歩ずつ近づいている事を感じさせる。夏の間、日照りが続くと、館内の室温もかなりあがって、クーラーがききにくくなるために外では屋根に向けてスプリンクラーが回るよう自動設定になっている。その水は屋根を流れ、といを伝って、幾つか備えてある水盤に落ちる、そして水盤のドロドロ水もきれいに入れ替わる。(すばらしい設備!)けれど今、雨が降っているのにスプリンクラーは回っている。水盤に落ちる水は、スプリンクラーの水やら、雨水やら・・・・とにかくどんどんあふれている。 アジサイ、カエデ、クローバー、トラノオ、ホタルブクロ、ナンテン。季節の流れと共に、色んな植物を辞書にはさんで押し花を作った。手紙も書いた。植物の名前を覚えようと、一日1つ!を一日3つ!などに増やしてみたり、図鑑、資料等を毎日少しずつ読む!の日々を過ごしてきた今、展示館をクルクルまわる以外に何もすることがなくなってしまって、苦手な文章など書く始末。今私が持っているエンピツは「ゆうせい」と書かれた2Bの落とし物エンピツ。届けも何もなかったので、私がユウセイくんのかわりに使っている。
高橋歩美