井関さおり

当然のことではありますが、子どもの絵はなぐり描きから始まります。まだまだ手も腕も器用に動くわけではないですので、「運動の跡」としての絵になります。視覚的な関心も薄いので、よそ見をしながら手を動かしていることもしょっちゅうです。

身体が発達して、手や腕を少しコントロールできるようになってくると、マルが描けるようになり、線もすっきりしてきます。この頃からだんだんと、描きながらおしゃべりをして、描いたものを意味づけるようになります。マルを描いた後に、「これなあに?」ときくと「おかあさーん」と言ったり。「運動」としてのなぐり描きから、「形」に「イメージ」をつなげ始める時期です。そして描いた後に意味づけをしていたのが、しだいに初めから何かの「つもり」で描くようになり、それから、描くものをあらかじめ「予言」して描くようになります。

大人の目から見れば、何かよく分からない絵でも、子どもにとってはこの「意味づけ」は大きな成長の証です。たくさんお話をしながら、「形」と「イメージ」をつなぐ「言葉」の見立ての能力が発達しています。「形」「イメージ」「言葉」がともに豊かに育つよう、小さな子どもがお絵描きをするときに、言葉のキャッチボールをしながら大人も一緒に楽しめるといいですね。

せっこう版画

 4月の絵画の課題は「せっこう版画」でした。丸いお皿で固めたせっこうを取り出し、絵の具をぬって、くぎで彫って絵を描き、最後に版画インクで紙に写し取ります。丸い形はいつもと違い新鮮で、くぎで彫る作業は指先に力がいるので、みんな自然と集中して、特に上級生は細かい表現がよくできていました。
 写真の絵は、4才の女の子が描いたディズニーランドです。もともとよくおしゃべりをする子で、これを描いたときもたくさんお話をしてくれました。「ミッキーとアヒルの男の子(←「ドナルドダック」が言えない)がいるの!」「ハートの雪がふってるの!」「ハートの愛の雪はくずれないの!」等々・・・。彼女の頭の中にバラ色の世界が広がっているのがよく伝わってきました。
 子どもにとって、空想の中に没頭して、幸せな気持ちにひたることはとても大切なことです。口に出したり、絵に描いたりして、その世界を作っていくことで心の中の世界もさらに広がっていきます。現実だけに向き合っていると、心が苦しくなることもあります。心の中に、現実とはまた別のスペースを持つことで健やかにいられるよう、子どもたちにたくさん創作の時間を持ってもらいたいなと思っています。