私が小学生ぐらいの頃は、まだまだ暮らしは楽ではなく、皆貧しい時代でした。今のように、銀行ローンや消費者金融など個人がお金を借りられるシステムはまだありませんでした。
そんな時、頼りにしていたのが講といわれる助け合いの民間組織です。地域で信頼されている年配の人を世話人として、何人かのグループを作り、毎月世話人が皆から積み立て金を集めます。それを月に1回位の割り合いでくじ引きでグループのうちの誰かにまとめて支払うしくみです。
私の祖父がその世話人をしていたので、子どもの私は興味深くその様子を見ていました。祖父はグループのメンバーの家を一軒一軒まわり、お金を集めていくのですが、私もよくお供についていきました。そして、講が開かれる日は、家の中をきれいに掃除して、ふすまを開け放し、たくさんの座布団を並べていきました。おじいさんは若い時に呉服屋の事務をしていたとのことで、帳面をつけたり算盤で計算したりすることが得意でした。そして、講のくじを作るのですが、白いきれいな和紙をハサミで丁寧に切って、まず順番を決めるくじを作ります。次に当たりを決めるくじを作ります。それらの作業は側で見ている私たち子どもにも緊張感のある空気が漂っていました。その日、講のメンバー全員がわが家に集まり、順番にくじを引いて、やがて当選者が決まると皆から集めたお金から世話人としてのおじいさんの手数料を引いたものがその人に支払われました。しかし、その時にどうしてもお金が必要な人がメンバーの中にいると、当選した人との間で話し合いがあって、その人に譲ることもありました。その時は講の決まりで、いくらかの利子のようなものが当選者には支払われていたようです。
このようにして、庶民のささやかな金融が毎月繰り返されていきました。皆つつましい暮らしの中でちょっとした興奮を味わい、お互いの懐具合を計り小さな幸せを噛み締めていた時代でした。 |