昔の生活は普段はとても慎ましく質素な暮らしですが、ハレの日は特別でそのワクワクした気分は今ではとても味わえないようなものです。私の子ども時代はそのハレとケの区別がはっきりしていたことが今と大きく違っている点だと思います。
その中でも一番大事なハレの日は何といっても「お正月」でした。お正月は元日の一日だけでなく、年末の一週間ほど前からその日に向かって徐々に緊張が高まっていきました。まずは大掃除から始まりますが、その日は1日中家族総出で家中の掃除に取り掛かります。今では考えられないことですが、家中の畳を全部取り外し外に出して陽に当てます。障子は張り替え、天井板もずらして煤払いをしたり、床下もきれいに掃きます。障子の張り替えの時には、普段決して破いてはいけないとされている障子紙に思う存分穴を空けて遊べるので子どもたちは大喜びでした。古い紙をすっかり取り除いてきれいに洗い流し、お母さんやおばあさんが新しい障子紙を張っていきます。煮炊きをするおくどの煙突も煤を払い、流しなど水回りもきれいにして、やがて夕方になると町内のあちこちの家からパンパンと畳を叩く威勢のいい音が響きます。こうしてすっきりした畳に、清々しい真っ白な障子、どこもかしこもピカピカに磨かれた家で新しい「お正月」をお迎えするのです。
今の私たちの生活ではこのように1年の区切りがはっきりせずにだらだらと日常が続いているような気がします。このようなリセット機能が無い今の暮らしはいつでも美味しい物が食べられて、きれいな服が着られて、一見幸せそうですが常に何かが不足しているような不安がつきまとっています。今は「お正月」が子どもの頃のように特別な日でなくなったことが少し寂しく思われます。 |