『おおきなきがほしい』(絵本)
(著者:佐藤さとる / 絵:村上勉 / 出版社:偕成社)
大きな木の上に秘密の家をつくって、本当の家や、まわりの世界からの逃げ場所にできれば。そんな想像は、大人にとっても、子ども時代の冒険心をしのぐ癒しを与えてくれるのではないでしょうか。20代でこの絵本を知ったとき、主人公の男の子が住む家の庭に“あるはず”の「おおきなき」は、その細やかな描写とささやかな希望で、若い心についた汚れを吸いとってくれるようでした。
かおるは、本当に夢の家を持っているのではありません。もし庭に大木があったなら、と想像しているので、その気にさえなれば誰にでもできるはずのことです。おそらくこんな大きな木の上に、こんなすてきな家を持っている子どもは、世界じゅうさがしてもいないでしょう。
お話の最後に、かおるは木の苗を庭に植えます。この絵本を読んで、同じことをした人もたくさんいることでしょう。庭がないから木が植えられないと泣いた人も。いつも暮らしている世界から離れ、独りになって、こぢんまりと、高い高いところにある家で暮らす夢。かおるは、妹ぐらいには教えてあげてもいいかなと考えていましたが、本当は鳥がたずねてくれるぐらいがちょうどいいのです。
そんなあれこれを想ってみると、この絵本に出会った20代というのは、まだじゅうぶんにかおるの世代だったのだと気付かされます。歳を重ねてゆくことの力強い側面とともに。
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