私は小児科病棟には“希望”というテーマを決め、あたたかい守り神としてホープさんという身長5mのおばあさんを描くことにしました。そして「おおきなホープさんのお話」という物語をつくってその物語に出てくる、小さな小人妖精を制作し、主人に小人妖精の扉を木の板でたくさん作ってもらいました。病棟は毎日過ごす場所なので作品が出すぎないように、うるさくならないように、色合いもとても気をつかいました。産科のテーマは“愛”です。外来に「空の国から…」という赤ちゃん天使の物語と6枚の絵を描き、個室全室に一枚一枚メッセージをつけて絵を設置しました。 1年半の間、この仕事を通して、私は学ぶことばかりでした。最初は病院に入院してくる子供達はかわいそうだ…という気持ちが強かったと思います。でも、命いっぱい生きて日々遊びたくて、お母さんは強くてでも弱かったりもして、それでもまたがんばって笑っている。病気の子供を持つということは、その経験を通して、母として父として、愛するという素晴らしい力を身につけられているのだということに、最後の最後に気がつきました。一生懸命、看病した子供さんが逝ってしまう時、お母さんは子供さんに向かって「ありがとう」とおっしゃられると、ある看護師さんが私に話してくれました。その話を聞いた時、私は心底感動し、とても励まされる思いがしました。 小児科、産科どちらも命の輝く場所です。私はそんな場所に絵や作品の仕事をさせていただくことが出来て本当にありがたい気持ちです。そしてこれからも何らかの形で色々な応援をさせていただけたら幸いです。絵描きとして母として。
「イルカの家」 (著者:ローズマリー・サトクリフ / 絵:C・ウォルター・ホッジズ / 訳:乾侑美子 / 評論社) R・サトクリフといえば、英国を舞台にした歴史小説の名手ですが、この『イルカの家』は異色といわれ、歴史ものが苦手な方でも、すんなり入ってゆける珠玉作です。16世紀の英国、ヘンリー8世の時代。ロンドンの下町で生きる鎧(よろい)作りの職人一家のもとへ新しく加わった遠縁の少女、タムシンが主人公です。細やかな生活描写と史実を織りまぜながら、子どもたちの成長や人間模様を描きます。”まるでその場にいるかのような”一体感に浸って読みました。まさに、浸りきってしまったのです。 タムシンは内気で、田舎で親がわりだったおじさんへの懐かしさもあり、なかなかロンドンの暮らしにとけ込めません。職人一家は彼女を配慮して受け入れてくれるのですが、それでも、一気に心を開くことはできなくて、独り苦しみます。船乗りを夢見る息子ピアズとの間に共通の魂を見出してから、タムシンは新しい世界へ踏みだしてゆくことができるようになり、ロンドンの生活を楽しみはじめます。 センセーショナルな事件や大冒険がなくても(夢想はしても)、世の中に根付いて生きてゆくことが、どんなに価値ある宝であり冒険となりうるか。タムシンたちを見ていると、私たちに与えられたギフトのことを想います。読みながら、タムシンやピアズの抱えた想いが周囲に受けとめられてゆくのを共に喜び、共に泣き、生活のあれこれを楽しんでいる”私”に出会えることでしょう。