16. 夏の暮らし 都築房子

 昔の暮らしの中で夏は夏の楽しみがいっぱいあって、暑い中でも子どもたちは毎日を元気に過ごしていたように思います。
 夏の始まりは輪ぬけ様でした。(これは今でも行われていますが。)
 それぞれの地域にある神社の境内に茅(ちがや)でできた大きな輪が設置されて、それをくぐり抜けるとその年一年が無病息災で過ごせるというものですが、その日は夕方早くからお風呂に入り浴衣を着せてもらい家族皆で神社へお参りに行きました。そこにはたくさんの夜店も出ていて、夏祭りのスタートを告げるものでした。今でもアセチレン灯の匂いが懐かしく思い出されます。大勢の人々が集まり楽しい気分が溢れていました。
 そして、次に七夕様のお祭りがありました。当日は1日がかりでお母さんやお祖母さんが色紙をハサミで切って糊を使い、優美な七夕飾りをたくさん作りました。くす玉やあみ舟など様々な種類があって短冊にもたくさんお願いを書きました。今では作り方も分からないものがあり、その時もっと習っておけば良かったと思っています。大きな竹を2本用意してその飾りをいっぱい飾り付けます。2本の竹の間に渡した縄には、五色の糸や夏野菜(ナス、キュウリ、ふろ豆など)も飾ります。果物やお団子などもお供えして年に一度の牽牛と織女の出会いを待ちました。当時は天の川ももっとくっきり見えたように思います。夜には井戸で冷やしたスイカも出してもらい、とてもおいしかったことを覚えています。
 冷蔵庫やクーラーやエアコンなど、現在の夏の暮らしに欠かせないものが何もなかった時代ですが、暑い昼間はバケツにいっぱいの水を入れてその中に足をひたして涼をとったり、川で泳いだり(当時は鏡川で子どもがいっぱい泳いでいました)、氷の塊を買ってきてかき氷を作ってもらったりしました。扇風機は一家に1台しかなくて子どもが使うものではありませんでした。夜はまだあまり車の走っていない道路にあちこちの家から涼み台を出して皆でのんびりとおしゃべりをしたり、将棋を指したり、線香花火をしたりと戸外でくつろいでいました。テレビはまだない時代で、隣近所のつきあいがとても密な時代だったと思います。