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作品タイトル:記憶   高知県立美術館  1999/3


 最近「老人力」という言葉が話題になっている。
 私も現在進行中の物忘れや体の具合の悪さを思うとそろそろ他人事ではない。
 ゆっくりと確実に老化が進みつつあるのを日々感じている。
 しかし、「老人力」という言葉の本来の意味は自分に素直に生きる力だと考えている。
 ありのままの自分を肯定的に受け入れることがまず第一歩である。
 不甲斐ない私や、情けない自分を、これこそが自分の本当の姿だと、受け止めることから始まる。   
 そして今まで自分を縛ってきた「何々しなければいけない」
 「何々するべきだ」と言った考え方から、自由になることが大切である。
 自分が本当にやりたいことや、気持ちよく過ごせるプランを持つことで、力まず物事を始められると思う。

 私達は二十世紀後半、戦後の日本を脇目もふらずに、懸命に走り続けてきた。
 そして今ふと振り返ると、そこには物質的な豊かさのみがあふれていることに気づかされる。
 たくさんの物に囲まれて何かものたりない満たされない心を抱えてうろたえている。
 今こそ自分が本当に求めているものは何かということに正面から向きあう時だと思う。
 若いということは、可能性にあふれていて自分の限界などないかのように錯覚してしまう。
 しかし、一年ごとに確実に年を重ねてありのままの自分を否応なく突きつけられていく。
 このことをいかに積極的に受け入れていくかどうかが、これからの後半生の幸せにつながるように思われる。
 
 「自分は自分である」という考え方の基本に立ち戻りたい。(細木病院・院内誌掲載)



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