▲戻る

ありふれた素材に対する新しい反応

 

アン・マクマホン


 紙は非常にありふれた素材である。私たちは極めて様々な状況において、紙と触れあう。そして紙は、あらゆる種類の感情と連想されることが可能である。
 「出発:出会いと旅」は、この魅惑的な素材を用いて、見る人の反応と戯れる。オーストラリアから5人、日本から2人のアーティストたちによる作品の展覧会が、クラフトACT(オーストラリア首都特別区工芸美術館)の新しいギャラリー・ワン(第一美術館)で開かれている。
 館長にとって、色は、展覧会のデザインにおける焦点である。この展覧会は、強い色を特徴とする作品で始まる。
 キャンベラの紙の大家、キャサリン・ニックスによる「命の旅」は、その構成と意味の両方において、層を成す作品である。色は、四大元素の関係と強い存在感を表し、組み立てる技術は、経験の蓄積に関係している。透かしで表現された人物および書道的表現は、文化的旅ならびに、命の段階的時期を通しての航海を暗示する。時空の両方を通しての旅が、これらのアーティストたちの中心的概念的関心事である。
 メアリー・ロスグレンのコンセルティーナ(小型アコーディオン)型の本は、超時間的なものを暗示し、手書きの彩色(絵画)を垣間見せてくれることで、見る人を引き付ける。これと対照的に、一瞬の複雑性が面白い写真シリーズ──即ち、その性質からして時間に基づく作品──において表現されている。
 ワニータ・フィッツパトリックは、しわくちゃにされた特大のサイズの、染みの付いた衣服を用いて、自己認識(アイデンティティ)を探求する。その表面は、暗示的に膚に似ている。
 都築房子は、「浄化」と題された立体作品において、この反応を不安の極端まで持っていく。乾いた血のような染みが、一群のぎごちなく吊るされた、頭の無い甲羅に付いている。色の緩やかな変化は、個体的変態の過程を暗示する。これらの作品は、張り子の製法を用いて、高度に造形的(彫刻的)質にまで達している。
 鋳造は、もう一つの立体的技法で、エマ・ラザフォードの立体作品である小さな器、「軽さと重さ」において用いられている。最小限の色を用いた作品は、展覧会場の奥の端で、瞑想の域を創造している。
 野村晶子による繊細な巻き物のような組み立ては、新しい文化的環境になじむ過程を探求する。ゴムノキの葉の組み入れ方は、反復的で単純であるが、喚情的である。
 古い辞典から取られた頁は、リズ・ジネイドの平面的作品において、一続きの枠構成になっている。彼女は、旅人の言及範囲(枠)が変化していくことと、意味を十分に表現するために、正しい言葉を見つける努力とを暗示する。技術的にも概念的にも、これは多様な取り組み方を包含するが、常に考えを挑発する主旨の展覧会である。
 「出発:出会いと旅」──オーストラリアと日本の現代の紙──はクラフトACTにおいて9月7日まで。




▲戻る