(2) 「いい日、エマ・ダツィ」 チュンズ

 チベットの小さな小さな王国ブータンは、1974年に開国したばかりの、まだ知る人ぞ知る国だ。面積は日本の九州ほどで、人口約60万人。首都のティンプーで約5万人とのことだから、南国市民と同じくらいらしい。
 高校生の時からすでに旅の計画はできあがっていたが、実際に行こうとすると、直行便がないせいで乗り継ぎがどうも上手くいかなかったり、一日200ドルというブータン政府に定められている滞在費もネックになって、実現できずにいた。
 そんな夢の国ブータンへ、昨年突然お呼びがかかった。というか、強力な旅の道連れができた。現在の夫である。夫は初めての海外旅行が今回のハネムーン、しかも行き先は勝手にブータンになってしまっていたが、美しいヒマラヤの桃源郷に、ご満悦のようだった。
 そんな夫の旅先での一番のお気に入りは、ブータン家庭料理「エマ・ダツィ」(唐辛子のチーズ煮込み)。ゾンカ語で“エマ”はとうがらし、“ダツィ”はチーズのことで、シシトウほどもある大きな唐辛子をふんだんに使ってあり、辛いものが得意ではない私にとってはとても食べられたものではなかった。標高の高い地方では、極度に辛いものを食べることによって汗をかき、身体を温めるという。以前訪れた貴州省の山奥でも、地元の人がとうがらし鍋をよく食べると言っていた。
 広がった青い空と年中頂に雪を被る高い山々、強い風のふく深い谷、アスファルトが敷かれていない細い国道。チョルテンの立つ峠で夫に写真を撮ってもらったことも、何ものにも替えがたい思い出のひとつとなった。

−私たちのなかの子どもへ− (28) 久保慧栞

「絵本と私」(著者:中川李枝子 / 出版社:福音館書店)

 世界じゅうの絵本を、絵本(児童書)作家がエッセイ風に紹介した本です。著者である中川さん自身の大人気シリーズ『ぐりとぐら』も、もちろんこの101冊に入っています。(101冊という数字から白黒ブチのダルメシアンが飛び出してくる方も多いことでしょう!)
 もともと北海道新聞に連載され、各地の新聞で転載されていたのをまとめ直して出版したということ。余談ですが、機会あって新聞掲載版と本書を読み比べると、新聞と個人の名前で出す出版物の違いというか、著者の手の跡がよく見えて興味深かったものです。
 エッセイにはそれぞれにテーマがあり、ストーリー紹介はほとんどありません。パーソナルなことから大きなことまで、親子が一緒に生きていくうえで知ってほしいなあと思う内容が詰まっています。エッセイそのものは大人向けで、実際に絵本を読んでいなくても楽しめる内容です。東西の民話から創作絵本まで幅広く、評価の定まった古典的な作品が中心。絵本の手引き書にプレゼントしても喜ばれそう。
 それぞれの絵本とエッセイは見開きで紹介されていて、すばらしいことに、テーマに沿ったページや場面を、原本の絵本から転載しているのです。絵本の福音館とはいえ、このようなことができたのは、中川さんの作品のファンがいかに多いかという証でもあるのではないでしょうか。
 エッセイのテーマを少しだけご紹介すると、ミッフィー(うさこちゃん)の絵本は、「だれかさんとそっくり」。皆が同じ顔だから?と思いきや、もっと深い親子の絆に結ばれるテーマでした。めずらしかったのは、アニメ映画『となりのトトロ』まで入っていること。実は中川さんが「歩こう 歩こう」というテーマ曲の作詞をされていたのでした。

ラーラ

 ベトナム戦争帰還兵、アレン・ネルソンさんの話を聴きました。
 アレン・ネルソンさんは、ニューヨークのハーレムで生まれ育ちました。スポーツや音楽が好きで唄い踊ることが得意な明るい少年でした。でも、ハーレムでの生活は貧しく、アレン少年とその姉妹3人を育てた母親の苦労は、私たちには想像できません。18歳になったアレンは、海兵隊に入って母親の苦労を軽くしようと考えました。アメリカでも日本でも、ほんとうの戦争に行くのは貧しい家庭の子弟です。決して権力者や金持ちの子弟は行きません。コイズミの息子は、ビールのCMでテレビに出ていました。
 海兵隊に合格した知らせを母親に伝えたとき、母親は喜ぶどころか、「お前を戦争にやるために大切に育てたのじゃない」と嘆きました。戦争から帰ってきたとき母親は、「お前はもう、私の愛した息子じゃない、唄い踊ることが得意なアレンじゃない、出て行っておくれ」と言いました。
 そう、海兵隊に入隊してからの訓練は「殺せ、殺せ、殺せ!」それだけでした。上官は言います「お前たちは考えなくていい、考えるのは上官の仕事だ、相手は動物と同じベトナム人だ、殺せ、殺せ、殺せ!」・・・
 ほんとうの戦争は、ヒーローの登場する戦争映画とは大違いです。あの腐乱死体の臭い・・・がありません。戦争映画に臭いがあったら、だれも見に行かなくなるでしょう。アレンは、ベトナム戦争から帰って、小学校教員の友人とその教え子たちに励まされ戦争体験を話そうと決めるのですが、実行にうつすまでの心の治療に18年間かかりました。
 アレン・ネルソンさんは、高知県下の小中学校でも話したそうです。ぜひ、もっともっとたくさんのみなさんに聴いてもらいたい、そして、ほんとうの戦争について考えてもらいたいと思いました。日本が戦後60年間ずっと、戦争の大好きなアメリカの「占領国」であり、アメリカの戦争を応援する莫大な費用を税金で支払い続けてきたことも・・・